バリの影響とイスラーム・ササック / ロンボック編 2

 またまたロンボックで申し訳ないが、記憶力の激しい減退で、今のうちに書いとかないと頭の中から消去してしまいそうなのだ。
 当時のロンボックは観光開発がは始まったばかりで、海岸線には大手リゾート・ホテルが並んでいたが、マタラムはまだリーズナブルなアコモーデーションが揃っていた。ところがインドネシアのホリディと重なってしまいなかなか取れない。なんとかスタッフの部屋が確保でき、翌日からは各ジャンル巡り。前回のアリップのおかげで片っ端から当たってゆく。
 面白いのは東西で芸能が違うこと。バリの影響下のものと、元々のササック・イスラム系に別れる。前者はバロンと称するガムラン、テレック、そしてワヤンである。後者ではルバナ、あのスマトラでも盛んな片手打ちのタンバリン。音楽的には退屈だが、なるほどインドネシアのイスラム音楽の代表だけ合って、持続にある種のトランス感覚を持っている。
 拾いものは、というとプロデューサーとして失格だけど、意外にできが良かったのがルバナ。さすがにマイクを構えると演奏が違う。ニュロット村のルバナは音がいい。スマトラの空港で観た偉いさんのお迎えルバナよりよっぽどしっかりしている。セッティングまで村長に『おしん』の話を聞かされていたが、不思議な雰囲気だ。ルバナはヘッドフォンで聴いてほしい音でもある。
続いてバリ系?のテレック。舞踊伴奏らしいが、もちろんなし。ところが興奮した婆さんが躍り込んできた。なかなかいい。水が悪くてコピは最悪だったけど、これは関係ない。
 最高は盤は出てないがワヤンだろう。なにせササックが判らない。いま聴くとけっこうワイルドで雰囲気がいい。ここでは凄まじいお土産タバコ草採り合戦があったけど、これは余興。詳しいことは皆川、古屋氏に聞いてみて。
 とにかく当時はインフラも不足していて電気もない場所だらけ。なかでもゲンゴンを録ったボンジュルクなんて、マラリア蚊が待っている。おまけに雨が凄い。ちゃんと録音に入っているから聴いてみて。とにかく巧いから。
 録れたけど出さなかったものもある。途中に皆川氏が、「こりゃ駄目、バリカセットのコピーです」おもむろに楽団に入ってクンダンはこう叩くんだと指導。素晴らしいパートナーだ。電気も水道もないが村を挙げての歓迎で、皆さん衣装まで着けているのだから気も引けるけど、こっちも仕事である。どうやら演奏すれば金になると村長同士のネットワークが出来たようで、カモにされたようだ。それより、どこへ録りに行っても、メンバーが重なっているんだよなあ。これには苦笑。
 でも録ったのはほんの一部。インドネシアの芸能の奥深さをあらためて知らされる経験ではあった。また機会があればロンボックの芸能を。

星川京児(ほしかわ・きょうじ)
音楽プロデューサー。民族音楽を中心に様々なジャンルの音楽制作に携わる。代表的なものとしてはキングレコード『ワールド・ルーツ・ミュージック』『日本の伝統音楽』『ユーロ・トラッド』など。ビクター『禅レーベル』ポニーキャニオン『国立劇場30周年記念』他多数。著書は、『知ってるようで知らない民族音楽おもしろ雑学事典』(ヤマハ ミュージックメディア)、『粋酒酔音−世界の音楽と酒 の旅』(音楽の友社)など。
映画『敦煌』『ラストエンペラー』では、中国音楽のディレクターを担当。
NHKをはじめテレビ、ラジオ番組の司会や パーソナリティとしても出演多数。

Hoshikawa

KING RECORDS
ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー
ロンボック島の音楽
KICW-85176

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