目開きは不便だなあ / ロンボック編 1

 バリのお隣、ロンボックの録音は楽しかった。収穫はともかく、こんなのありという、ある意味いい加減で、それでいてふーんと唸らされる不思議な芸能、いや音楽がたっぷりあったのだ。一連のバリ録音の調査もかねて、スラウェシやスマトラまで足を伸ばした時とはちょっと違って、バリの隣だからと行く気になったのがロンボック。UNESCOから盤も出てたし、日本人の研究書?のようなものもあったので、つい興味を引かれたところもある。
 最初はメルパチ航空で行ったが、なんとも近い。ところがバリとは別世界。いきなり出会った若者たちが、背中を見せて鞭というか棒で打ちあった傷跡自慢。くそ暑い首都?マタラムから出たばっかりの所でとんだ押し売り芸。こっちの仕事も判っていないはずなのに、これはなんだろう、と思いながら街を散策。これがいつもの手段だが、どうも勝手が違う。例によって町中を彷徨い、カセットなどを買いあさる、ところが売ってない。路上で売ってるテープは地元ササックのもの。ポップスやダンドゥットばかり。伝統ものはない。それにしても酷いテープで、かけるとヘッドがベタベタで後で使えなくなる。
 その後録音チームと一緒に来た時は皆川さんが、博物館に直行。使えそうなスタッフをリクルート。さすがにインドネシアのプロ。でなければ録音は無理だったろう。
バリでチャーターした車だからウォーレス海峡を越えてきた。これはこれで面白かったのだが、また別の話。
 プリアタンの運転手(問題多し)と皆川氏、カメラの古屋氏という、ある種最強のチームである。これにマタラムから博物館のアリップ氏。こっちの方が金になると、その場でリクルートOK。なんとも、である。
 ササックならではのルバナにワヤン、バロンetc。けっこう録れたのだが、さて使えるものといったら。これが難しい。
 しかし最高はチロカック。この島最高のクロンチョン、つまりポルトガル発の伝統ポップスである。ポイントは盲目の演奏家による芸能ということ。編成はベースやギターにバイオリンと、きわめてオーソドックスだが響きはインドネシア、というより小スンダ列島のハワイアンの趣だ。
 なんとかリーダーのアリ・マジャールに連絡が取れ、いよいよ録音となったのが、運転手がボスのカミさんから頼まれたカンクン(空芯菜)を買うといって大幅遅れ。結果録音は夜。相手は盲学校。こっちはあいにくと目開きばかりで、不自由この上ない。こんな奇妙な録音は、私にも初めてだった。結果オーライでよかったとは思うが、それにしても、である。目開きの女性歌手はイベント用に雇われているようで、呼ばれた場所ではササック・ダンドゥットなど歌うという。他のバンドのチロカックもテープがあるから、そういう芸能として成り立っているのだろう。以下次号へ。ごめんなさい…

星川京児(ほしかわ・きょうじ)
音楽プロデューサー。民族音楽を中心に様々なジャンルの音楽制作に携わる。代表的なものとしてはキングレコード『ワールド・ルーツ・ミュージック』『日本の伝統音楽』『ユーロ・トラッド』など。ビクター『禅レーベル』ポニーキャニオン『国立劇場30周年記念』他多数。著書は、『知ってるようで知らない民族音楽おもしろ雑学事典』(ヤマハ ミュージックメディア)、『粋酒酔音−世界の音楽と酒 の旅』(音楽の友社)など。
映画『敦煌』『ラストエンペラー』では、中国音楽のディレクターを担当。
NHKをはじめテレビ、ラジオ番組の司会や パーソナリティとしても出演多数。

Hoshikawa

KING RECORDS
ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー
ロンボック島の音楽
KICW-85176

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